GHQ焚書図書開封(12)「征野千里」9:保定城壁突入

2013.10.10.18:10

戦場手記『征野千里』中野部隊上等兵谷口勝著 新潮社昭和13年12月発行より

■保定城壁突入

 私たちは保定への泥濘を進んでいた。永定河から保定まではいたるところに野菜畑があったので、部隊がちょっと停るとすぐ野菜を採りに行った。この日も部隊が停って炊事がはじまる前の寸暇に、四人の戦友たちと付近の畑へ出かけて行った。銃があっては、野菜を十分両手に持てないので、みんな銃なしだった。高粱畑の向こうの方にどうも立派な野菜畑がありそうだというので、散歩でもするような気持でブラブラと出かけた。空は晴れ上がってなにか鳥の声さえ聞える。長閑な北支の田園風景だった。高粱畑を抜けると果して見込みどおり見事な野菜畑が広がって、その向こうには小さな部落さえ見えている。畑には円くて一尺くらいの長さの立派な大根がニョキニョキ生えていた。

「しめた!」と口々に叫んで大根を掘りはじめた。「まだあちらにもある、こちらに白菜がある」といって私たちは下ばかりみて這いずり廻る間に、部落に近づいていたのを気付かなかった。瞬間、ダ、ダ、ダ、と機銃が部落の端で鳴って同時にピューッピューッピューッと弾が耳元をかすめて飛んで行った。ハッと思って伏せる。反射的に銃を構えようとして銃代りに白い大根を持っていることに気がついた。「しまった!」と思った。弾は連続的に飛んで来てプスップスッと畑の土に喰いいる。じいっと伏せている、とやがて機銃がピッタリ止んだ。ヤレヤレと思ってこの間に退ろうとじりじり二、三歩動くと、とたんに再び機銃が鳴って弾が傍の大根に突刺さった。二進も三進もゆかなくなった。しきりと軽率さが悔まれてきた。武器も持たないで、大根を抱いてはなんとしても死なれない。他の三人を見るとみんな、しまった、という同じ思いの顔つきをしている。それでも目を見合った拍子にニヤニヤと笑ってみせた。ジリジリ這って、やがてうまく高粱畑の中へ入った。高粱畑を抜けて、もう大丈夫、と思うとまた四人が期せずして顔を見合った。そして、四人ともワッハッハッハと笑った。・・・・

 部隊へ帰って「ひどい目に会ったぞ」とこの失敗の巻を披露に及んでいると、表から石原上等兵がノソリノソリと入って来た。左手で一人の支那兵の腕をつかまえ、右手に鶏を二羽ぶら下げている。みんなが呆れ顔で目を瞠ると、石原上等兵はニヤリニヤリ笑って二羽の鶏を突き出した。「それはわかっているよ、左手の方はなんだい」というと、石原上等兵は支那兵を振り返って胸を張った。
「鶏と一緒に分捕って来た。敗残兵の癖に生意気にこの『兄さん』を撃ちやがる・・・」と悠然たるものである。一言もなかった。私たちは大根を抱えてホウホウの態で帰って来るし、石原上等兵は敗残兵を従えて帰って来る――これだけの違いが私と彼にはあるのだろうかと惚れ惚れとして『兄さん』を眺めるほかなかった。

 激しい行軍がつづいた。もう何を喋るものもない。黙って前を歩く戦友の靴をみて行く。行けども行けども沼地で、ひどい泥濘が膝まで喰い入って足の乾くことが絶対になかった。皮膚はふやけてみんな水虫になった。ビッコを引かないものはいなくなってしまった。それでもちょっと休止するとすぐ覚えた支那語で片言の冗談を云い合った。

写真は決死の突撃を前に名残の一服

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