GHQ焚書図書開封(27)「征野千里」18:杭州湾の敵前上陸4

2016.05.05.14:32

写真は城壁を乗り越えて敵陣へ
seiya11.jpg

敵の陣地が一度に大火薬ででも炸裂したように、ダーンダーンと幾十とも知れない機銃が喚きつづけた。このすさまじい銃砲火の狂乱の後になにが来るかを私たちは長い戦闘の経験で知っていた。私たちの壕の中には忽ち生々としたものが甦って来た。「野郎いよいよ逃げ出すな――」とみんながつぶやく。そして早速背嚢を背につけて、いつでも壕を飛び出せる用意をした。戦場では兵隊というものは実に不思議なほど瞬間瞬間で変化をする。豆が出来て、もう一歩も歩けないという兵が散開すると、歩けぬ筈の足で立派に畑を蹴って突撃するし、眠気なぞ何処にあるかという顔で走りわめいていた兵がちょっと休止すると、もうぐうぐう眠ってしまったりする。いまもそうだ。焦躁と疲労の極ドロドロの壕の中におのおのの生気を溶かしこんでしまつた兵たちが、猛烈な銃火が敵の敗走準備を意味すると知るや、とたんに、シャンと張りきってきた。そして、口惜しくて口惜しくてたまらない敵だ。全滅してもいいからこの壕を飛び出して敵の機銃座へ銃剣を突きつけたいと思った。こんどこそ、どんなに逃げても必ず追いついて突き刺してやろう、とみんな考えた。果して夜中近くになると敵の銃火が、人の足音にピタリと鳴き声を静めるコオロギのように、寒々と衰えて来た。・・・・

「前進!」と命令が出た。一切の疲労が消し飛んだ。一足飛びに右側の機銃座へ飛び込むと、敵の死体と死体の間へグチヤグチャと足を突っ込んでしまった。抜こうとすると、一つの死体が私の足をしっかりとつかんだ。「畜生!」と怒鳴って刺そうとして気がついた。敵の死体が両手で私の足を掴んだのではない。私は死体のポケットの中へ足をふみ込んでいて、なかなか抜けないのだった。・・・・
 駅を過ぎて崑山の街へ雪崩れ込むと街の真中を幅四十メートルほどのクリークが流れていた。クリークの橋を一気に渡ろうとすると、対岸の民家からビューッビューッビューッとチェコ機銃が鳴って戦友が三人バタバタと橋の袂に倒れた。さっそく友軍の軽機が橋の袂からこの民家を射った。私たちはクリーク岸の民家の中へ陣どって窓からそこを射った。敵の弾は窓から室の中へ飛び込んでピンッピンッと壁を割ったり、跳弾になってカラカラカランと室を一と廻りしたりした。クリーク前方の民家から射って来ると思うと、左側から壁を突き抜いて弾が飛んで来たりして、何処から弾がくるかほとんど見当がつかなかった。


 室の中は酒倉らしく、酒の香がプンプンしていた。弾は酒甕に当って、甕はいくつもの破片となって室一杯に飛んだ。酒がザーッと流れ落ちる。「オ、オイ」と石原上等兵が呼んだ。「こ、この室で射つのはよせ、隣へ行こう。こりァ酒がみんな駄目になる」と慌てていった。酒倉を出た石原上等兵は橋の袂へ来て、「いつまでやったって駄目だ、飛込め!」と叫んだ。そして一気に橋を渡って対岸へ走って行く。五、六人一緒について飛んで行った。橋向うの角の民家から手榴弾が二つ飛んで来て道の向う側で炸裂した。石原上等兵が銃でこの民家の表戸を叩き破っていた。私が駆けて行くと、この民家から悠々石原上等兵が出て来て吐き出すようにつぶやいた。
「たった三人だ、チョッ!」
 方々で市街戦をやっている音が聞えていた。私たちは市街をずっと掃蕩して日も暮れだしたので、街外れの民家で宿営することになった。歩哨を立てて炊事にかかると、しきりと機銃の音がして弾がいくつかピューンピューンと民家の屋根に当たり出した。銃声はいよいよ激しくなって、どうしても戸外で炊事をすることが出来ない。家の中へはいると弾は室の煉瓦を突き抜いて飛び込んで来る。またぞろしつこく逆襲をはじめてきたのだが、もうそれにかかり合う気にもなれなかった。敵は民家の二、三十メートル近くまで押し寄せて来て、盛んに射つ。友軍の機関銃隊が何処かに陣を作ってザーッとこれを薙いでいた。すると激しい銃声の中にしきりと犬の鳴き声が聞えるように思った。
オヤ、と思ってみんなが聞き耳をたてた。確かに犬の鳴き声だ。聞き覚えのある鳴き声――「サチだろ」と、誰かが叫んだ。「サチだ、サチだ」とみんなが一斉に飛び出した。

 崑山の前衛線の燃える鉄橋で、片足を真赤に血に染めながら駆け出したきり、生きたか死んだか知らなかった『幸』だ。私たちは家を出て本部の方へ走って行った。本部の入口で見覚えのある大きな耳を立てた犬が、兵たち二、三人と戯れていた。私たちが走って行くと、『幸』は猛然と飛びついて来た。両足を私たちにかけようとしてヨロヨロッとよろめいて止める。そして嬉しそうに「クークー」と咽喉で鳴きながら首を曲げて鼻を足のところへもってゆく。よく見ると、『幸』は片足に白い包帯を巻いていた。よろめいてそれをペロペロなめる。あまりなめるので包帯は黒く汚れてしまっていた。
「オイ、生きてたかッ!」
と石原上等兵が叫んでその大きな首をしっかりと抱いた。『幸』は長い舌で石原上等兵の軍服の襟をペロペロとなめた。やがてまた「クークー」といって足に巻いている包帯を鼻で嗅ぐ。「おーお、わかったわかった、サチ、よかったなあ」そういって、みんながポロポロ泣いた。弾が本部の屋根にカンカンと当っている。

戦場手記「征野千里」中野部隊上等兵谷口勝著(昭和十三年十二月新潮社発行)より
スポンサーサイト

comment

Secret

プロフィール

南知隊!

Author:南知隊!
~南京の真実を知らせ隊~
略称『南知隊』
『南京大虐殺』と言う歴史歪曲による不当な冤罪を多くの人達にしってもらおう!
そんな想いを持った人々の集合ブログです。

最新記事
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
南知隊ブロの中で検索したい事柄があった場合、↓の窓に語句を入力して「検索」ボタンを押すと、該当の記事が出ます。
通州事件の真実
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR