〈「日本に核武装」― 米国から出た初めての奨励論 国際問題評論家 古森 義久氏〉抜粋

2011.06.01.18:39

今までの「日本核武装論」は「オオカミがくる」式の警告

 北朝鮮の核武装が国際的な懸念の対象となったのは1990年代のはじめだった。その結果、米国と北朝鮮との間で1994年に米朝核合意枠組みという協定が調印された。この協定は二国間の交渉と合意の産物だった。今の北朝鮮がしきりに求める二国間交渉の結果だったのだ。

 「北朝鮮が核兵器を持つと、日本も核武装に走る!?」――という予測は、だから1990年代からあったのである。しかしこの「予測」は一貫して、「オオカミがくる」式の警告であり、カードだった。日本の核武装というのは決してあってはならないこと、危険なことであり、そんな状態を生まないためにも北朝鮮の核武装は許してはならない、という趣旨だった。

 「日本の核武装」という警告は米国から発せられ、中国に向かってぶつけられることが多かった。日本が核兵器を持つという事態は中国にとって最も忌避する可能性だから、その原因となる北朝鮮の核武装を中国が阻止すべきだ、という理屈である。肝心の北朝鮮に対しても、この「日本の核武装カード」は使われることがあった。北朝鮮が核を持てば、最大の敵の日本も核を持つことになるから、核武装をやめておけ、という説得だった。だが北朝鮮に対するこのカードはまったく効果がないことが判明したわけだ。

なによりも米国が日本の核武装に反対だった

 そもそも日本の核武装論がこれまでまともな議論たりえなかった理由の一つは、肝心の米国が日本のそんな動きには絶対に反対するという大前提があるからである。米国が主導した核拡散防止体制は核武装の国家を現在以上には増やさないということが大原則である。この体制は核拡散防止条約(NPT)によって支えられてきた。日本ももちろん署名国である。この国際条約に加わった非核の国は核武装をしないことを誓っているわけだ。

 米国はこのNPTの最大の推進国であり、日本に対しては日米安保条約に基づく二国間同盟で「核の抑止力」を提供している。つまり日本の防衛のための「核のカサ」を保証しているのだ。その代わり日本は独自の核は持たないということが相互の了解である。

NYタイムズに掲載された政策提言としての「日本核武装論」

 しかしただ一つ、例外があった。

 ブッシュ政権で大統領補佐官を務めたデービッド・フラム氏がニューヨーク・タイムズ10月10日付に発表した寄稿論文での主張である。フラム氏はこの論文で北朝鮮とその背後にいる中国を厳しく非難していた。北朝鮮が米国をはじめ国際社会をだまして、核実験に踏み切り、しかも中国はその冒険を阻止できる立場にあるのに止めなかった、と糾弾している。だから米国は北朝鮮と中国にそんな危険な挑発行動への代償を払わせるために一連の断固とした措置をとるべきだ、と主張している。

 フラム氏はそのなかで日本について次のように述べていた。

 「米国は日本に対しNPTを脱退し、独自の核抑止力を築くことを奨励せよ。第二次世界大戦はもうずっと昔に終わったのだ。現在の民主主義の日本が、台頭する中国に対してなお罪の負担を抱えているとするバカげた、見せかけはもうやめるときだ。核武装した日本は中国と北朝鮮が最も恐れる存在である」。

 「日本の核武装は中国と北朝鮮への懲罰となるだけでなく、イランに核武装を思いとどまらせるという米国の目標にも合致する。日本の核武装の奨励は、他の無法国家がその地域の核の均衡を崩そうとする場合、米国とその友好諸国がその試みを積極果敢に正そうとすることをイランに知らしめることになる。米国はイスラエルの核攻撃能力を高めることもできるのだ」。

日本が信頼できる同盟国だからこそできる議論

 この論文の筆者のフラム氏は2001年から2002年まで第一期ブッシュ政権で大統領補佐官として働いた。主要任務は大統領の経済関連の演説草稿を書くことだった。同氏は本来はジャーナリストだが、ハーバード法科大学院卒の弁護士でもあり、共和党系保守の活動家として、国家安全保障の領域でも研究や著作を活発に重ねてきた。現在はワシントンの大手研究機関「アメリカン・エンタープライズ・インスティテュート」(AEI)の研究員である。要するに今、政権を握る共和党保守派の人物なのである。

 フラム氏のこの論文は「相互確証撹乱」と題され、副題は「話し合いはもう十分。北朝鮮と中国に代償を払わせよう」とされていた。

 種々の公的合意を破って核武装に走る北朝鮮と、その動きを知りながら止めようとしない中国に対して、もう話し合いではなく、実際の報復や制裁、懲罰の行動によって応じよう、という主張である。

 フラム氏はその他に以下のような主張をも述べていた。

 「米国にとって最も危険な敵の核兵器取得が、米国にとって最も頼りになる同盟国の核兵器取得という結果を招くことを北朝鮮や中国に知らしめるべきだ」。

 「今後の米国の戦略目標は、第一は北朝鮮の核の脅威を受ける日本と韓国という同盟国の安全を強化すること、第二は北朝鮮に核武装への暴走の代償を十二分に払わせ、イランへの警告とすること、第三は中国に懲罰を加えること、である」。

 「日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポールをNATO(北大西洋条約機構)に招き入れる。NATOはいま域外諸国の加盟を求めており、そうした加盟は中国への大きな抑止となる」。

 「日本や台湾のミサイル防衛を大強化するとともに、北朝鮮への人道援助を全面停止する。韓国にも北への援助の停止を求める」。

 以上、強硬な対応である。日本に核武装を奨励するという部分は現在のブッシュ政権のグローバルな核拡散防止の政策とは明らかに衝突する。だがその一方、一連の政策提言ではブッシュ政権の本音をちらほらと反映していることも否めない。

 しかし初めて米国の識者、しかも現政権にきわめて近い人物から大手新聞のニューヨーク・タイムズという主要舞台で「日本に核武装の奨励を!」という主張が出たこと自体は、米国の新たな戦略思考のうねりをも感じさせる。少なくともこれまでの「オオカミがくる」式の日本核武装論とは根本から質の異なる議論であることを理解しておくべきだろう。


「日本に核武装」― 米国から出た初めての奨励論 国際問題評論家 古森 義久氏(2006年10月13日)より
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/i/33/index.html

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